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八代目、物思いにふける

それが僕の生きる道だ

 不思議だね。とっても変なカンジなんだ。悲しいのに涙が出ない。カラダのどこかに空洞ができたみたいで、何をしても埋まらない。

 あの日、僕は東京にいたんだ。仕事を終え、新幹線に乗っていた時、地震にあったの。新幹線がひっくり返るんじゃないかと思うくらい揺れた。トンネルの中で、しかも電気が消え真っ暗。しばらくしたら車内放送で震源地が宮城県沖、大津波警報発令と聞いたんだ。
 「あぁ、これは大変だ…」と思ったけど、正直その時は会社や家族のことを心配するより、真っ暗な中に閉じ込められた自分を何とかしなくちゃ、そればかり考えてた。
 去年も大津波警報が発令されても大きな被害がなかったから、そんな風に考えてしまったんだね。
 結局3時間後に新幹線は上野駅まで戻り、僕たちはそこで降ろされたんだ。
 携帯電話はつながらず、ホテルはどこも満室。やっとの思いでたどり着いた親せきの家で目にとびこんできたのが、上空からの陸前高田市の惨状。

 「全滅だ。」そう思った。

 地震がおきて、津波が町をのみこんだあの日、八木澤商店では大切な社員を一人、失った。
 消防団員で地域の住民を避難誘導し、家の中に残っている人がいないか確認するため、また町に戻ったらしい。地震発生からわずか30分でのあの津波。
 実の妹も1ヶ月近くたった今も行方がわからない。
 空洞が埋まらず、悲しいのに涙も出ないのはそのせいかな。目の前はガレキの山なのに、津波は映画の世界のようで、一瞬のうちに大切な人達をいともカンタンにのみこんでいく。
 実感がわかない。どこかに居る。連絡が取れないだけのことかもしれない。
 何度そう考えたことか。

 僕が変わり果てた会社を見たのは、数日たってからのことだった。かすかなもろみの香りが風にのって僕の鼻をくすぐる。まるで、ここに居るよ、と教えてくれているみたいに。
 「八木澤は終わった。町もなくなった。何もかも終わった。」ここにあったはずの蔵は影も形もなく、わずかに土台を残しているだけ。屋号の「やません」の 文字が入った醤油ラベルが土に半分埋もれている。ほんの数日前まで、僕はここで蔵を見せながら日本古来の発酵調味料、醤油の素晴らしさを伝えていたのに。 「醤油はこうやってつくられるんだよ」と工場を案内していたのに。
 僕の目の前には数日前までここにあったものが、何もない。だから「廃業」とポツンと言った。
 そしたら息子はそれを許してくれなかった。
 「再建する、必ず。だから、社員は解雇しない。会社も町も復興する。」
 息子は言い切った。その言葉に、そうか、よし!復興させる!そう思ったけど、どうしても不安がぬぐいされない。僕の気持ちを察してか知らずか、毎日全国から届く沢山の手紙や救援物資。それを見ていたら、今まで味わったことのない感情がふつふつと沸きあがる。
 再興する。自分のそんなちっぽけな不安は捨ててしまえ。何故下を向く?沢山の人の前で中途半端だとグチが出て、本気だと知恵が出る、何度も何度も言ってきたじゃないか。
 じゃあ今、僕は自分のことに関してはどうなんだ?
 全滅、終わった、廃業、社員解雇、ここ数日、それ以外に自分は何を考えた?

 「会社をたて直し、お醤油をしぼる日がきたら必ず知らせて下さい。」

 僕がしなければいけないことは下を向くことでも、肩をおとすことでもない。
 会社をたて直し、社員と一丸となって醤油をしぼる日をむかえる。そして、それをお客様に届ける。今までしてきたことを続けるだけのことじゃないか。

 時間はかかる。長い長い時間はかかる。
 でも再建する。そう決めた。醤油を搾ってお客様に届ける。
 それが僕の生きる道だ。

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